電源構成比の推移から見える「脱炭素」の難易度は?

要約
長期展望:脱炭素実現に向けて、2030年と2050年を目標に火力削減と再エネ拡大が必須。水素やアンモニア、次世代原子力などの革新技術は開発段階で、特に風力・太陽光の短期導入が鍵となる。コストや技術的課題を抱えつつも、企業と自治体が協調し既存の屋根やカーポートを活用する太陽光導入が、2030年目標へ向けた現実的な道筋となっている。
電源構成:10年前との比較で水力・地熱は横ばい、原子力は事故後に激減。一方、太陽光は0.3%から1割超へ急増。既存ダム・地熱開発の制約や住民合意のハードルもあり、火力削減には再エネ普及が鍵となる。原子力目標22%の実現が難航すれば再エネ拡大がさらに重要となり、国や自治体の政策支援と企業の自発的導入が不可欠な状況だ。
具体策:2030年46%削減は現実的に火力を減らし、太陽光・風力を最優先で導入することが急務。企業は屋根や遊休地を活用した自家発電や再エネ電源の選択を進め、国や自治体の補助や規制改革も後押しに。共同購入やPPAなど多様なビジネスモデルも活用され、脱炭素への転換は企業経営や自治体運営の競争力強化につながると期待されている。
※本稿はこちらの動画を記事化した内容となります。
※撮影(2023年5月)時点の情報を多く含んでおり、現在の状況とは異なる可能性がございます。
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カーボンニュートラルを実現するために
———2030年までの第6次エネルギー計画において、どのように達成していくのかという話があったと思います。その先にある2050年のカーボンニュートラルについて、具体的にどのように達成していくのかという点で、狩野さんが準備されたスライドについて教えていただきたいです。

一つの区切りは2030年。もう一つの区切りが、目標である2050年のカーボンニュートラル達成です。
その達成のためには、さまざまな努力と技術が必要です。
ただ、人が「頑張る」というだけではなく、技術的に解決できることが最も重要だと思います。
例えば、電気であれば、コンセントから電気を使うという行為はそのままにして、そこから供給される電力を次世代型や脱炭素電源にすることが非常に重要です。
例えば2050年に向けて、新聞やマスコミ、または政府が取り上げる水素、アンモニア、地熱、小中水力といった新しい技術。
これらが2030年の脱炭素や第6次エネルギー基本計画に間に合うかというと、少し厳しいかもしれません。
━━━短いですもんね。
また最近CCSとかCCUS。温室効果ガスを出したならば、それをキャッチして地中に蓄える。または油田だとかガス田に入れて合成メタンを作るというような技術っていうのも今構築されてます。
CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)
排出されたCO2を集め、地中深くに貯留・圧入するもの。
CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
分離・貯留したCO2を利用するもの。
また原子力の次世代型。というのは原子炉、あちらにあるような高速ガス炉とか、小型モジュール炉だとか、高速炉、核融合炉も当然必要になっている技術なんですが、これはあくまでも私達の子ども、もしくは孫の世代が頑張ること。
※関連記事:【解説】原発再稼働で電気代はいくら下がるのか?
━━━なるほど、それが次世代型。
次世代。私達がやるところっていうのは、あちらにある通り、2030年に向けて46%温室効果ガスをどうやって減らすのかという。そういった場合に一番手っ取り早いのが、火力を減らして再エネを増やすという。
そして今ある技術って何なのかということです。これから法律変えて頑張るよというと、どうしてもリードタイムが長くなります。
今世界でも日本でも在るリードタイムが短いものって何かっていうと、風力発電と太陽光発電。この2本柱をまずは徹底的に育てること。導入すること。ここに一つのキーポイントはあると思います。
━━━あくまで最近注目されてる技術は次世代と言われてるぐらいなので、2050年に向けた解決策として開発だったりだとか、効率化を高めてるという状況であり、手前の目標の2030年に対して、今の法律だったりだとか、今の技術でできるのは太陽光とか、風力っていうことなので、そういったものに注目が集まっている。補助金も含めて、国の後押しがどんどん進んでるっていうところがあるってことですかね。
もう一つは、この脱炭素に企業として真摯に向き合うかどうかです。では、私たちはどの分野で脱炭素を進めるべきなのかが重要なポイントになると思います。
当然、大手企業は次世代型の技術や事業への投資を進めています。
例えば、三菱商事などは「EX」という言葉を掲げ、エネルギーの転換に取り組んでいます。
しかし、これからの未来を語る際には、すべての電源において過去10年前がどうだったかを振り返ることが必要です。
電源構成の推移

先ほどリードタイムの長短について触れましたが、ぜひこのスライドをご覧ください。
これは弊社が独自に作成したものなので、若干の違いがあるかもしれませんが、大筋では現状に近い内容になっていると思います。
例えば、水力発電について見ていただくと、2010年当時と2020年で大きな変化は見られません。これは日本において大規模なダムを建設できる場所がほとんど残っていないことを意味します。
地熱発電についても、大きな変化がない状況です。その背景には、自然保護法や公園法、温泉法などの法律が存在し、これらが障壁となっているからです。
「邪魔」という表現は不適切かもしれませんが、それらが進展を阻む要因となっていることは否めません。
━━━障壁になってくるっていうことですよね。
原子力発電は、2010年時点で電源構成比率の約3割を占めていました。しかし、原子力事故後を見てみると、2020年には4%台、現在でも5.9%で6%に満たない状況です。
2030年の目標である22%から24%に、あと7年で達成できるのかという点や、住民の理解を得られるのかが課題となっています。
水力発電は、2030年の目標が11%とされています。一見すると達成が簡単そうな数字に思えますが、過去10年の推移を考えると非常に困難な目標です。
━━━それをこの短い期間でいかに実現するかは、非常に高いハードルと言えますね。
一方で、太陽光発電をご覧ください。
2010年には電源構成比率がわずか0.3%程度でした。それが2020年には8%以上を占めるまでに成長し、現在では1割を超える状況です。
このことから、あと7年で最も現実的に伸ばせる電源として太陽光発電が挙げられます。東京都が屋根に太陽光パネルを設置する政策を推進しているのは非常に現実的な対応ですよね。
今ある屋根やカーポートに太陽光パネルを設置し、企業や家庭が自ら発電することを急ぐべきです。これにより電源を切り替えることが可能になります。
企業においても、もし屋根に余剰スペースがあるなら、太陽光で自家発電を行い、その電力を自社で使用することが重要です。
これは脱炭素に向けた小さな一歩かもしれませんが、非常に大きな前進となると思います。
関連記事:【電気代削減額の事例】法人向け自家消費型太陽光発電で、いくらコストカットできる?

━━━なるほど。実際にこうやって対比してみると非常に分かりやすいですね。これは、火力発電が大幅に削減された分をどの電源で補うのかという、分散した状況を示しているということですね。
そうです。私が一番懸念しているのは、原子力の20%から22%という目標値です。この目標に達成できない場合、誰がその不足分を埋めるのかという問題が生じます。
さらに言えば、過去50年近くで、97%だった一次エネルギーの化石燃料依存度を71%まで減らしてきました。
しかし、もし原子力が減らされることになれば、20%台までさらに削減する必要が生じます。つまり、残り7年で50%削減しなければならないということです。
これは現実的には非常に困難な目標です。その場合、再生可能エネルギーをどこまで拡大できるかが問われます。
私の考えでは、太陽光発電と風力発電に全精力を注がない限り、目標達成は厳しい数字に留まるでしょう。そうなると、先進国の中でも脱炭素政策で大きく後れを取る可能性があると懸念しています。
━━━こうして見ると、太陽光発電の普及スピードは他の電源と比較して非常に速い。風力発電も同様に、短期間で普及を拡大する点で優れていると言えますね。
どちらも、現在の日本や世界ですでに利用可能な技術です。
━━━つまり、既存の技術を活用し、スピード感を持った導入が期待できるということですね。
あとは企業が「えいやっ」と決断すること。さらに国が後押しすること。これだけで実現可能です。
例えばトヨタが、国の指示を待たずに、愛知県田原市のレクサス工場に風力発電を導入しました。そこでは2.1MW(メガワット)の電力を自家発電し、それを使って車を製造しています。
こうした取り組みは、国の政策を前倒しで進める形となっており、非常に自然な流れだと思います。
━━━本当に急務であるということが、こうした事例や比較から非常に鮮明に分かりました。

2030年目標の達成のために
━━━最後に、狩野さんの個人的な意見でも構いませんが、2030年第6次エネルギー計画で掲げられている2030年の目標を日本が達成する上で、大事なポイントを一言で教えてください。
もう一言で言えば、単純に計画通りに火力を減らし、再生可能エネルギーを増やすことです。
ただし、その中で原子力については一旦置いておき、企業、個人、自治体それぞれがとにかく再生可能エネルギーを導入することが重要です。
例えば、企業であれば屋根に太陽光パネルを設置すること。できることから始めるべきです。
もし屋根がなかったり、老朽化していたりする場合は、再生可能エネルギー由来の電源へ切り替えることも選択肢となります。
これにより、電力会社や新電力会社は、再生可能エネルギーを提供しなければ競争力を失う状況が生まれます。
結果として、それが再エネの開発促進につながります。
どちらにしても、意識を高く持つことが重要です。
企業も個人も、まずは再生可能エネルギー由来の電源を選択する一歩を踏み出すことをおすすめします。
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