【電力会社の電源構成比は知っておくべき】電力会社比較|電源構成比が電気料金に与える影響とは?
要約
日本全体の電源構成比の現状と目標:2022年の日本全体の電源構成比では、化石燃料への依存が72.7%と高く、火力発電が主要な電源です。2030年に向けては、火力発電の割合を41%に減らし、再生可能エネルギーを36~38%、原子力を20~22%に引き上げる目標が設定されています。この変化は脱炭素や燃料費の安定化を目指す国家方針に基づくものです。
化石燃料依存のリスクと電気料金への影響:化石燃料価格の高騰は電気料金の上昇を引き起こし、燃料価格が2倍になったケースもあります。特に液化天然ガス(LNG)や原油への依存度が高い電力会社では値上げ傾向が続いています。一方、石炭火力の比率が高い電力会社は価格変動の影響を受けにくいですが、将来的なカーボンプライシングの影響が懸念されています。
需要家の役割と電力利用の未来:電力の供給と需要を効率化するため、需要家側も工夫が求められます。例えば、晴れた日の工場稼働や蓄電技術の活用、ピークシフトによる電力利用の平準化が挙げられます。また、電力会社が天候や時間帯に応じた柔軟な料金メニューを提供することで、供給と需要のバランスを取りつつ、電力コスト削減が可能となります。
※本稿はこちらの動画を記事化した内容となります。
※撮影(2024年2月)時点の情報を多く含んでおり、現在の状況とは異なる可能性がございます。
出演者紹介
日本全体の電源構成比
―――今日は各電力会社の電源構成比を比較してみたいと思います。
どのようなエネルギー源で電気を作っているのか、ですね。
―――脱炭素や化石燃料の高騰など、これから進行する変動の中で、影響の大きさに関わる要因の一つが各電力会社の電源構成比だと考えられます。我々のYouTubeでも、今後企業が設備投資を行ったり、新しい工場を建設する際に、どの電力会社と契約するかが重要だという話をしました。
―――その背景にあるのが電源構成比、今日のメイントピックです。
重要なテーマですね。
―――各電力会社の電源構成比がどうなっているのか、そしてなぜ電源構成比に注目する必要があるのかについて話していきます。
―――各電力会社の電源構成比を比較する前に、日本全体の状況を見てみたいと思います。日本全体で化石燃料にどれだけ依存しているか、電源構成比として現在どのくらいの割合なのでしょうか。
現在、速報値のため若干の変動があるかもしれませんが、2022年の速報値では72.7%が化石燃料に依存しています。
―――なるほど。これが火力発電の電源構成比に反映されているわけですね。国の目標としては、今後この割合を減らしていく方向性が示されています。
2030年において、火力発電の割合を41%に減らし、再生可能エネルギーは現状の21.7%を36~38%に引き上げる。さらに、原子力は現状5.6%から20~22%まで再稼働を進める計画です。これが第6次エネルギー基本計画に基づく目標となっています。
―――日本全体の方向性としては、火力発電や化石燃料に依存した発電を減らしつつ、再生可能エネルギーと原子力発電の比率を増加させていく流れということですね。
そのとおりです。
※関連記事:【電気代削減額の事例】法人向け自家消費型太陽光発電で、いくらコストカットできる?
化石燃料に依存するリスク
現状のリスク
―――現状、化石燃料や火力発電に頼り続けることには、どのようなリスクや懸念点があるのでしょうか。
まず、温室効果ガスを削減しなければならないという国際的な課題や、カーボンニュートラルの実現が難しくなるという点が挙げられます。また、最も大きな懸念は燃料費の負担です。
―――やはりここが一番のトピックですね。
ええ。日本は資源がないため輸入に頼るしかありません。その結果、燃料価格が2倍、3倍に跳ね上がることもあります。
―――そうですよね。価格が私たちのコントロールできないところで決まり、それを購入せざるを得ない現実があります。その価格が現在高騰し、高止まりの状態が続いているわけですね。
例えば、2023年のピーク時における燃料費調整制度の平均燃料価格を見てみると、2018年の平均は3万4983円でしたが、2023年度の平均は7万4966円となり、この5年で2倍になっています。
5年で2倍というのは非常に大きな変化です。
このグラフを見ると、2023年の2月がピークで、その後は順調に下がっていましたが、12月には5万2400円に落ち着きました。しかし、そこから再び上昇し、1月、2月、3月と上がり続けています。
―――燃料費は上がったり下がったりするものの、最悪の場合は上がりっぱなしのリスクもあります。常にこうした不安定な状況を抱えているわけですね。
そうですね。その状況を考えると、電源構成の内訳が気になりませんか?
―――確かに。化石燃料と一口に言っても、石炭、石油、天然ガスといった違いがありますよね。電源構成比の観点では、これらの分類が重要です。
例えば、東電さんの直近4カ月の燃料価格を見ると、5万2400円から3月には5万5200円に上がっています。その中で石炭の価格は横ばいですね。
―――そうですね。石炭は大きな変化が見られません。
一方で、原油は1万円ほど上昇していますよね。液化天然ガス(LNG)も上がっています。
ということは、原油と液化天然ガスに頼っている電力会社は値上げ傾向にありますが、石炭を多く使う電力会社は比較的価格が安定している、つまり横ばいであると言えます。
―――確かに。電気料金が上がる電力会社とそうでない電力会社の差が、こうした内訳からも見えてきますね。石炭の比率が高い電力会社は、今回の電気料金高騰の影響を比較的受けにくいようです。
そうです。ただし今後の状況を考えると、例えば、東北電力、東京電力、中部電力、関西電力、沖縄電力といった液化天然ガスの比率が高い電力会社は、値上げの傾向が続きそうです。
一方で、石炭火力が多い北陸電力、中国電力、沖縄電力、北海道電力などは、カーボンプライシング、つまり温室効果ガスに価格が付く制度の影響を受ける可能性があります。
―――石油・石炭・LNGといった化石燃料の電源構成比が高い状態では、購入時の燃料価格のボラティリティというリスクを避けることはできません。このリスクは今後も続いていくということですね。
その通りです。環境負荷に対するコストが上乗せされる未来が見えてきますね。
―――さらに、カーボンプライシングが発生した場合、燃料費が安くても経済的な負担が増える可能性があります。そのような背景もあり、国全体の方針として火力発電を減らし、リスクをヘッジするために再生可能エネルギーや自国で発電可能な原子力を伸ばしていこうとしているのだと思います。
例えば、原子力発電に関しては、現在再稼働しているのは関西電力、四国電力、九州電力などで、これらの電力会社では原子力比率が20%を超えています。その結果、火力発電の割合が大きく減少している構図が見えます。
日本全体の2030年に向けた電源構成比、具体的には火力を41%に減らし、再エネを増やし、原子力の再稼働を進める目標を考えたとき、原子力発電の再稼働が進めば確かに火力は減りますが、今後再稼働がどの程度進むと思いますか?
―――そうですね。国としては増やしていく方向性で動いていると思いますが、技術的な課題以外にも住民の理解やその他の障壁があり、スピード感の面で課題があります。2030年までに目標を達成できるかは、やはり疑問が残ります。
そうですね。現状では10基しか稼働しておらず、この状況を打開するのは非常に難しいと思います。
※関連記事:【解説】原発再稼働で電気代はいくら下がるのか?
東京電力と九州電力の比較
電源構成比の違い
―――日本全体の状況を見た上で、具体的に電力会社ごとの電源構成比を比較すると、今回の電気料金の変動がどのように影響しているかが分かると思います。今日はその中でも、東京電力と九州電力を比較してみます。
これが一番分かりやすい比較かもしれませんね。まず電源構成比ですが、東京電力は火力が73%、九州電力は49%です。この時点でかなりの違いがありますね。
次に原子力を見てみると、九州電力は23%、一方で東京電力は0%です。
―――これは非常に分かりやすい違いですね。
さらに再生可能エネルギーでは、九州電力が20%、東京電力が13%です。
―――九州電力は国が2030年までに目指している電源構成比に限りなく近い状態にあると言えますね。理想像としての姿を既に実現しているわけですね。
そうですね。これからは九州電力も再生可能エネルギーのさらなる利活用がテーマになっていくと思います。全体として再生可能エネルギーをいかに増やし、効率よく利用するかが鍵となるでしょう。
料金の違い
―――国が目指している電源構成比に近い九州電力と、火力に依存している東京電力。この電源構成比の違いが分かりましたが、実際の料金にはどのような差が生じるのでしょうか。
これも非常に明確に差が見て取れます。
まず、一般家庭のケースを考えてみます。総務省が発表している4人家族の一般的な家庭における1日の消費電力量は13.1kWh、月に換算すると約400kWhです。この400kWhを基に、東京電力と九州電力の従量電灯Bプランで比較してみました。
400kWhの消費を基に、基本料金や再エネ付加金を含めた総額を400で割った1kWhあたりの単価は、九州電力が29円、東京電力が40円でした。
―――ここでも10円の差が出ていますね。
次に、企業向け料金を見てみましょう。
東京電力では4月から新しいプランが始まっていますが、基本料金が異なるため完全な比較は難しいものの、単価だけを比較すると、東京電力が23円、九州電力が12円です。
―――これはかなり大きな差ですね。
さらに、その他の季節料金を見ても、東京電力が22円、九州電力が12円と、同じく10円の差があります。このように、電源構成比の違いが料金にも大きく影響していることが、同じ国内でも明らかです。
―――九州電力は再生可能エネルギーの比率が高く、特に太陽光発電の割合が多いことが特徴ですね。そのため、東京電力よりも電気料金が安く、燃料費の価格変動の影響を受けにくい状況にあるというお話でしたが、一方で太陽光の多さゆえの課題もありますよね。
九州電力でよく話題になるのが、電力管内での「太陽光発電出力制御」だと思います。まず、この出力制御について簡単に説明すると、電気は需要と供給を一致させなければならず、作りすぎても足りなくても問題が生じます。供給が需要を上回ると周波数が狂い、最悪の場合停電が発生する可能性があります。そのため、供給と需要を100対100に調整する必要があるのです。
太陽光発電は天候や季節によって発電量が大きく変動するため、需要を超えて電気を作りすぎる場合があります。このような場合には、発電を抑える「出力抑制」が行われます。
―――出力制御とは、太陽光発電を必要以上に発電させないようにすることですね。
そうですね。業界では「下げのデマンド」と呼ばれることもありますが、太陽光だけで需要を賄える季節が発生すると、卸市場での電力価格が非常に安くなることがあります。これは別の意味での問題として注目されています。
―――九州電力さんのように出力制御が多い状況でも、太陽光発電のポテンシャルを活かして発電を有効活用した方が良いという考え方もありますよね。電源構成比の目標を達成する上で、出力制御されること自体が勿体ないと感じます。
実は、電力会社としては出力制御をせざるを得ないのです。
―――それは需要と供給のバランスを保つため、安定供給の観点からということですよね。
その通りです。さらに言えば、出力制御の背景には「電力を買ってくれる需要家がいない」という問題があります。これからは逆に、私たち需要家がどのように電力を利用するかを考える時代に入ってきているのです。
需要家ができること
昔は昼間の電気料金が高く、夜が安いという理由で、一般家庭では夜にお湯を沸かす深夜電力の利用が一般的でした。しかし、現在では原子力が動いていない東京電力管内の場合、それは火力発電由来の電気となっています。
一方で、昼間に電気が余るのであれば、それを熱利用に回したり、蓄電したり、ピークシフトを行うなどの工夫が考えられます。また、企業が晴れた日にフル稼働するという選択肢もあり得るでしょう。
―――需要と供給の調整という視点で、供給側が工夫してきた取り組みに対し、これからは需要家側が工夫する時代ということですね。
その通りです。電力会社も需要家が利用しやすいメニューを作るべきです。
例えば、ネットを活用してバーチャルパワープラントのような仕組みを構築し、天気予報に基づいて「来週晴れるので工場をフル生産にする」といった選択ができれば、電気代を大幅に抑えられるでしょう。逆に、雨の日には稼働を抑えるといった運用も考えられます。
バーチャルパワープラント
仮想発電所。再生可能エネルギーや蓄電池、電気自動車など小規模なエネルギーリソースをITを用いて制御し、一つの大きな発電所のように機能させる技術。
さらに、どうしても調整が難しい場合には、他の方法で調整を行いますが、基本的には電力を平準化することが理想です。このような取り組みが、供給側と需要側の協力によって可能になる未来を見据えています。
―――平準化とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
電力の使用量は、一般的に午後3時がピークとなり、朝5時が最も使われない時間帯です。この差があるため、発電所はピーク時に備えた予備の発電を用意しておく必要がありますが、これは効率的とは言えません。
―――そういう調整力を確保するための仕組みがあるわけですね。
その通りです。しかし、みんなが電力を上手にコントロールして使用するようになれば、この差を埋めることができ、電力の平準化が進みます。これにより、本当の意味で電力コストを削減することが可能になります。
―――つまり、使われる時間帯を平準化するということですね。
そうです。日本全体でこのような工夫を進める時期に来ていると思います。
―――必須の取り組みですよね。限られた敷地面積やリソース、ポテンシャルの中で。
その通りです。ただ再生可能エネルギーを増やすだけでなく、その使い方も考える必要があります。
―――まさにそのような時代に突入している感じがします。蓄電池などの技術が、平準化に役立ちますし、需要家側の工夫を進める上では、有効な一手になりそうですね。
そうですね。これからの時代のニーズにぴったりの取り組みだと思います。
また、使う側が工夫することに加えて、電力会社がそのようなメニューを提供することも重要です。
―――例えばですが、具体的にどのようなメニューが考えられるでしょうか?
想像にはなりますが、天気や季節に応じたプランニングが挙げられると思います。
電力会社は、時間帯ごとの電力使用量や再エネの発電量を把握しています。その情報を基に、お客様と直接契約して個別のメニューを作ることができれば、非常に興味深い取り組みになるでしょう。
―――それは面白いですね。例えば「晴れの日の電気代が安い」「雨の日は高い」といったプランでしょうか。
そうですね。それは十分に考えられるプランですし、実際にあっても不思議ではないと思います。このような柔軟なプランニングが、需要と供給の調整に役立つでしょう。
まとめ
―――今回は、各電力会社ごとの電源構成比が異なることについてお話しましたが、意外とこれを気にしていない、あるいは知らない人も多いですよね。
そうですね。これまでは気にする時代ではなかったという背景もあります。
―――そうですよね。ただ、燃料費の高騰や脱炭素といった観点から、自分が契約している電力会社の電源構成比を知ること、そしてどの電力会社と契約するのかを考えることは、経済的にも非常に重要になってきています。
これからも新しいメニューが次々と登場してくると思います。
例えば、出力抑制を活かしたプラン。それが実現すれば、需要家にとってさらに選択肢が広がるでしょう。
―――そうですよね。政策的な取り組みや蓄電池を含めた新しいメニューの登場も今後増えると思いますので、そういった情報を引き続き追っていく必要がありますね。
2030年に向けて、大きな変化が進んでいくでしょう。
―――確かに、話を聞けば聞くほど状況がドラスティックに変わってきていると感じます。今回の内容も、企業運営や個人の選択にとって有益な情報になったと思います。今後も継続的にこのトピックを追いかけていきたいですね。例えば、電源構成比がどのように変わったかを3年や1年単位で追っていくのも面白そうです。
そうですね。実際、燃料費が5年間で2倍になったような変化が起きていますから。
―――そのような変化を毎年データとして追い続けると、非常に興味深い分析ができそうですね。引き続き注目していきたいと思います。
記事を書いた人