脱炭素化しないと投資されない?投資家と気候問題の関係

脱炭素化しないと投資されない?投資家と気候問題の関係

前回の記事で、気候変動が経済に与える影響(リスク)について紹介しました。

物理的なリスクにせよ、政策的なリスクにせよ、経済への深刻な影響を避けるには、科学的根拠に基づく、秩序ある政策導入で1.5℃目標を達成しなければいけません。

そして、それは各国の金融監督省庁や中央銀行の急速な動きにも繋がっています。ESG投資が主流になっている昨今。金融の中心にいる人や組織が、気候変動をどのように捉えているかを理解することは必要不可欠といえます。

※ESG投資:従来の財務情報に加え、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資。

金融当局の抱える懸念

世界各国の中央銀行や金融規制当局は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告書で炭素予算の概念が提唱された2014年頃から、気候リスクに本格的に目を向け始めました。この報告によって「化石資源が不良債権化する」リスクが顕在化し、イングランド銀行をはじめとする金融当局が、そのリスクを独自に調査し始めたのです。

その結果、金融の安定にとっての新たな3つが挙げられました。

  • 物理的リスク
  • 政策リスク
  • 賠償リスク(気候変動に伴う保険金支払い、各種訴訟に伴うリスク)

金融機関が気候リスクを適切に理解し、その所在を明らかにするための情報開示が必要という認識も高まっています。しかしながら、実際はそのリスクがどこに、どれだけあるかを知る手段がないという問題があり、金融当局はその対応を迫られています。

気候リスクの認知が広まり、多くの企業がそれに曝されているにも関わらず、未だに金融機関や投資家は、そのリスクの勘定の仕方が分からず、資金を当時続けているのです。

各国の為替政策や経済の動向をチェックしている国際通貨基金(IMF)も、「気候変動の物理的リスクが、株価の評価に全く反映されておらず、これが今後、市場の大きなリスクになりかねない。」と警告し、企業による気候リスクの情報開示を義務化する必要性を唱えています。

また金融当局にとっての気候リスクは、個別の事象に留まらず、ドミノ倒し的に負の波及を引き起こし、システム全体の被害(Systemic Risk)につながる可能性が想定されます。

※システミック・リスク(Systemic Risk):個々の金融機関は、取引や決済ネットワークを通じて密に繋がっていることから、一箇所で起きた事象が波及していき、結果としてシステムや構造全体に激しい変動などを引き起こすリスク。発生要因には、GDPや物価指数など経済の経済の基礎的諸条件の大きな変化、大型金融機関の倒産、投資家や消費者心理などがあるとされる。

新たな投資基準

投資家の中でも、年金基金や保険会社などの資産保有主(アセットオーナー)、またはその委託を受け資産運用を行う運用会社(アセットマネージャー)は特に、気候変動に注目していて、その対応はダイナミックといえます。

彼らは圧倒的な資金量を持ち、かつ中長期の運用を行う機関投資家です。そのため、豊富な資金と体系だった株主行動によりESGの流れの中心に位置していると言え、その動向を見れば、今後の予測も立てやすくなります。

長期的な運用益の最大化を志向し、莫大な資産を幅広い領域に分散している彼らは、気候変動が長期的に、かつ経済全体に与える影響を「自分事」として捉えられる稀有な存在なわけです。

投資先による気候リスクの多面的な評価

10兆ドルを超える資産を運用している世界最大の投資運用会社であるブロックロック社のCEOラリー・フィンクは、このように言います。

「気候変動がリスクや資産価値の根本的な見直しを促している」

「近い将来、大半の人々が予想しているよりも早く大規模な資本の再分配が起きる」

同氏はその理由として、資本市場は将来のリスクを先取りした形で織り込むため、気候変動そのものよりも早い時期にそのアロケーションが変更されることを挙げています。

※アロケーション(Allocation):割り当て。配分。

ブロックロック社が使用している投資リスクの管理ツールに「Aladdin」と呼ばれるものがあります。

「Asset, Liability, and Debt Derivative Investment Network」の頭文字を取ったこのツールは、世界の株式、債券、通貨などのリスクを定量的に測定するほか、リーマンショックや中国の金融引き締めなどの影響に備えたポートフォリオの管理が可能とされています。

そして2020年12月、この「Aladdin」に気候リスクを管理する機能「Aladdin Climate」が追加されました。これは物理的リスクや、政策リスクなどを加味して、資産価値を調整し、様々な気候リスクを指標化することができます。

「Aladdin」は有料で外部にも提供されていて、著名な機関投資家や大手IT企業など250社が利用しています。

この事実は、投資リスクの管理手法の中に、気候リスクが本格的に組み込まれ始めているといっても良いでしょう。

さらにブロックロック社は、投資先の企業に対して2050年までに脱炭素化と整合的な事業計画の策定を求め、気候変動に関連するエンゲージメントを行う企業の数を1000社超に増やす行動指針を示しています。

企業が開示する情報を補う形を模索する動きも加速しており、人口衛生の観測データや、SNSを活用した情報分析で、企業の評判や方向性を分析する方法も誕生しています。

投資家たちが、気候リスクを多面的に評価し始めていることは理解しておくべき事実なのです。

投資家の気候リスクへの対応

機関投資家たちにとっては、個別企業だけでなく、市場全体のパフォーマンスも投資リターンに影響する要因です。気候リスクの所在を把握し始めた投資家たちは、そのリスクを適切に管理する試みを始めています。

個別企業への対応

個別企業への対応としては、投資家が投資先企業の気候リスクを精査し、それを直接的に財務諸表に反映させることを要求するなど、具体的な対応を取る動きも多くなってきています。

企業の取締役会に対して気候リスクの管理を強化するように求める事例もあります。ブロックロック社は、個々の取締役に気候変動に関する専門知識を備えることを求め、取締役会の責任として、気候変動に適切に対応するように促しています。

さらに2021年には、脱炭素化に整合する中長期的な目標の設定と開示を取締役会に求め、それが満たされなかった場合には、その企業の取締役の選任に反対票を投じる可能性があると発表しています。

より直接的なケースとしては、株主総会において、投資家が環境問題への造詣が深い外部人材を株主に推薦する事例も存在しています。

ダイベストメント

反対に、適切な気候リスクへの対応が困難だと判断した場合には、投資家がダイベストメント(資金の引き揚げ)を行うこともあります。

2015年のパリ協定合意の前後には金融機関による石炭関連事業からのダイベストメントが活発化しました。

経済全体への対応

機関投資家のマクロ経済への対応としては、各国政府に1.5℃目標の達成に向けて秩序ある政策の導入を求めるというものになります。

2021年6月、総額約41兆ドル(世界の運用総額の約37%)に上る資金の運用を行う450社以上の機関投資家たちが、G7サミットに先立って、とある書簡を発表しました。

これは、G7各国、そして全世界の政府に向けて、気候変動対策の強化を求めるもので、現状のままではパリ協定の目標を達成できないことに触れ、様々な政策の早急な導入を要求しています。

加えて注目されているのが、機関投資家が企業のロビー活動に対して目を光らせ始めたという事実です。

※ロビー活動:個人または団体が政府の政策に影響を及ぼすことを目的として特定の主張を行う私的な政治活動。

さまざまな気候変動政策の導入を拒む要因の一つに、政策強化に反対する産業界のロビー活動があることは、それに従事する人たちの間では周知の事実となっています。機関投資家たちはそれらへの対応も余儀なくされています。

Climate Action 100+

「CA100+」と省略して表記されることも多いこの世界的なネットワークは、機関投資家が連携し、気候変動に関連する投資企業への働きかけを共同で行っています。

彼らは、投資先企業によるロビー活動の実態を調査するのに加え、投資家が期待する適切なロビー活動の内容を伝達する対応も始めています。

CA100+の報告によると、企業単位では気候変動政策を支持する姿勢をアピールしています。一方で、そのような企業が加盟している業界団体としては依然として問題のあるロビー活動を行っている事実があります。

現時点で、CA100+の対象となっているのは世界的な大企業ばかりで、その業界団体への影響力も強いはずです。しかしながら、見えてくるのは「個社としては前向き、業界団体としては後ろ向き」という現状です。投資家たちはこのような姿勢に疑問を持ち、改善を求めています。

まとめ

二記事に渡り、気候変動と脱炭素社会への転換が、企業や経済にどのような影響を及ぼすのか、また投資家たちがそれをどのように捉え、対応しているのかを見てきました。

気候変動の進行により起きる気象災害や、それによって進む科学的研究。人々の認知が変われば、政策にも変化が生じ、それは自ずと投資家や企業、延いては市場に影響を与えます。

気候科学、認知、政策の変化、投資家動向、そして具体的な企業へのインパクトについての国際的な動向を一気通貫でモニタリングすることで、会社の意思決定に役立てることができます。

また、それを企業間で共有することで、社会全体として我々が直面している大きな問題に立ち向かうことが出来るようになるでしょう。

参考文献:松尾雄介「脱炭素経営入門 気候変動時代の競争力」

記事を書いた人

岩見啓明
株式会社恒電社

岩見啓明

クリエイター。恒電社では動画、記事、広報、企画、セミナー運営、デジタル広告と幅広く施策を担当。個人では登録者数1万人超えのYouTubeチャンネルを運用した経験の他、SDGsの啓蒙活動で国連に表彰された経歴も。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローンの国家資格)を取得。

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