企業の電気料金の決まり方を解説します。

要約
電気料金の構成と仕組み:電気料金は「基本料金」と「電力量料金」、「その他」で構成され、基本料金は「最大需要電力」に基づいて決まります。この最大需要電力は1ヶ月間で最も電力使用量が多かった30分間を元に計算され、年間で一番高い月が基準になります。節電の効果が料金に反映されるのは1年後である一方、使用量が増えた場合は翌月すぐに反映される仕組みです。
負荷率と契約電力の効率性:「負荷率」とは、ピーク時の使用量に対する平均使用量の割合を示し、高いほど契約電力を効率的に活用できることを意味します。負荷率が高いとコストパフォーマンスが良くなる一方で、低いと効率が悪化しコストが増加する傾向があります。電力量料金は使用方法や契約メニュー次第で抑えることが可能です。
再エネ賦課金と燃料費調整制度:再エネ賦課金は、再生可能エネルギー普及のために使用量に応じて負担する仕組みです。一方、燃料費調整制度では燃料の購入価格が基準価格を上回ると電気料金が上昇します。昨今の高騰は燃料価格の急騰や輸入不安によるもので、電力システム改革やデジタル化が、持続可能な電力供給と料金改善の鍵となります。
※本稿はこちらの動画を記事化した内容となります。
※撮影(2023年5月)時点の情報を多く含んでおり、現在の状況とは異なる可能性がございます。
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電気料金の内訳
━━━ここからは電気料金のそもそもの決まり方、そして仕組みについて狩野さんに教えていただきたいのですが、お願いできますでしょうか。
日常使う電気は当たり前に使えるもので、一般の家庭では毎月口座から引き落とされるため、あまり気にされない方が多いと思います。
一方で、企業では電気料金を気にすることが多いですが、主に総務部の担当者が関心を持っているだけで、すべての従業員が詳しく気にしているわけではないと思います。
電気料金は一見複雑そうに感じますが、基本的には「基本料金」と「電力量料金」の2つの要素で構成されています。

基本料金
このうち、基本料金は企業によって異なります。
例えば、工場や業務用オフィスの場合、電気の使用パターンや休日の使用有無などによって契約内容が変わります。
基本料金の計算方法は、契約メニューで1kW(キロワット)あたりの料金が決まっており、最大でどれだけ電力を使用したかが「最大需要電力」として算出されます。
具体的には、1日24時間の中で30分ごとの電力使用量を測定し、1か月の中で最も使用量が多かった30分が「最大需要電力量」となります。
そして、1年間で毎月の最大需要電力量を確認し、一番使用量が多かった月(例えば3月)が基本契約の基準となります。普段ほとんど電気を使用しない企業でも、その特定の30分間だけ多く使用すると、その使用量が1年間の基本料金に反映されます。

━━━つまり、全体の使用量ではなく、最大使用量が基本料金を決める重要なポイントなんですね。
その通りです。さて、では電気料金を下げる場合はどうなるでしょうか。
企業が節電しても、すぐに翌月から電気料金が安くなるわけではありません。
電力会社は節電状況を1年間観察し、11か月間の使用量が安定して下がった場合に限り、次の契約に反映されます。例えば、3月に100kW使った後、4月以降80kWに下がったとします。この場合、次の契約は1年後に80kWが基準となります。
一方で、使用量が上がる場合はどうでしょうか。
例えば、1年後の4月に80kWまで下がったものの、5月に100kW使った場合、翌月にはすぐに100kWが基準となります。下げるときは1年間かかりますが、上がるときは翌月に反映されるのです。
このように、電気料金の基本契約は、30分ごとの使用量が重要であることを理解する必要があります。

電力量料金(使用料)
次にあるのが使用料です。これは単純に使った量に応じて決まりますが、上手なメニューの選び方をすることで、電気代を抑えることができます。
例えば、電力の使用が多いのが昼間や特定の季節の場合、時間帯や季節ごとに使い方を分散させると、電気料金の上昇を防ぐことが可能です。
さらに「負荷率」という考え方があります。
負荷率とは、ピーク時の使用量に対する平均使用量の割合を指します。負荷率が高いほど、契約電力を効率よく活用できることを意味します。
例えば、冷凍冷蔵庫を利用する倉庫のように、一日を通して電力使用が一定であれば、契約電力をフルに活用できるため、コストパフォーマンスが良くなります。
一方で、負荷率が低い場合は、契約電力に対する利用効率が下がり、コストが高くなる傾向があります。
これを例えるなら、広い敷地に多くの集合住宅を建てると効率的ですが、広い敷地に4世帯だけのアパートを建てると非効率になるのと同じです。
契約と使い方のバランスを考えることが重要だという点が、電力量料金におけるポイントです。

━━━それが電力量料金ということですね。
そうですね。メニューの選び方次第で大きく変わる部分です。
━━━ありがとうございます。その他についても教えていただけますか。
その他というと、例えば「再エネ賦課金」や「燃料費調整額」が挙げられます。
再エネ賦課金
再エネ賦課金(再生可能エネルギー賦課金)は、2012年から始まりました。
それ以前は「太陽光発電促進賦課金」という名称で、主に太陽光エネルギーに関連していましたが、現在はすべての再生可能エネルギーを支援するための制度に変わっています。
これは、火力発電による温室効果ガスを削減し、再生可能エネルギーの普及を促進するために、電気を使用する人々が協力して負担する仕組みです。
再エネ賦課金の金額は、使用電力量に応じて増える仕組みになっています。
━━━電気を使用すればするほど、その使用量に応じて再エネ賦課金をきちんと支払う制度が確立されています。
そうですね。これがなぜ必要なのかというと、環境への負荷を軽減するためです。
現在、火力発電が主流のままでは温室効果ガスの排出を止めることができません。この問題を解決するためには、電源を火力発電から再生可能エネルギーに切り替える必要があります。
その切り替えを国民全体で進めようという考え方が再エネ賦課金の基礎になっています。
具体的には、太陽光発電や再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取ります。電力会社は買い取った分だけ火力発電を行う必要がなくなるため、削減された費用を国から交付金として受け取ります。
この交付金の原資が、私たちが支払う再エネ賦課金なのです。
━━━前の動画で紹介されたFIT制度と連動した仕組みということですね。
その通りです。再エネ賦課金が増えるということは、温室効果ガスが少なくなっているという証拠でもあります。
━━━火力発電から再生可能エネルギーへの転換を促進するためのインセンティブとして、この制度が設計されているのですね。
そうですね。
燃料費調整制度
それともう一つ、先ほど陣汰さんがおっしゃった燃料費調整制度についてですね。
━━━これは最近ニュースで頻繁に取り上げられていますね。
確かに聞く機会が増えましたが、以前はあまり話題にならなかったですよね。
━━━正直、これまでは全然耳にしたことがありませんでした。どのような制度なのですか?
実は日本では、火力発電が電力供給の7割以上を占めています。
この火力発電は主に石油、石炭、液化天然ガス(LNG)の3つの燃料を使用しています。
それぞれの燃料の平均購入コストに基づいて基準単価が設定されており、この基準単価は北海道から沖縄まで、各電力会社のエリアごとに異なります。
━━━つまり、各電力会社によって基準価格が異なるということですね。
その通りです。
燃料費調整制度の仕組みとしては、例えば12月、1月、2月の3か月間で購入した燃料の平均価格を算出し、それを3か月後(この場合5月)に基準価格と比較します。
購入価格が基準価格より安ければマイナス調整として電気料金が下がり、高ければプラス調整として電気料金が上がります。
━━━各電力会社の基準価格に対して、実際の燃料購入価格が安ければ電気料金が下がり、逆に高ければ上がるということですね。
その通りです。

━━━最近の電気料金の高騰は、この燃料費調整制度において、燃料の輸入平均価格が電力会社の基準価格を大幅に上回っているから反映されているわけですね。
そうです。例えば、東京電力が設定している平均基準価格は4万4,200円です。
この価格を超えると電気料金が上がる仕組みですが、過去のデータを見ると、2014年を除きほぼマイナス調整が続いていました。つまり、それまでは石油や石炭、ガスを安定して輸入できていたのです。
しかし、ここ数年で状況が変わり、特に影響を与えた要因としては、脱炭素政策やカーボンニュートラル政策が挙げられます。さらに決定打となったのが、昨年のロシアによるウクライナ侵攻による燃料供給不安です。
そして今年2月、私は非常に驚いたのですが、(東京エナジーパートナー管内における)平均燃料価格がついに10万円を超えてしまいました。
━━━大体、今までの狩野さんのイメージでは、燃料価格はどのくらいでしたか?
2~3万円ですね。平均すると2万円ほどです。
━━━それが5倍ですか。
そうなんです。基準価格が4万円に対して、通常2万円程度と半額くらいが一般的でしたが、そこから一気に5倍になりました。
そして現在、少しずつ下がりつつあるようにも見えますが、本来であれば5月は電気の需要が一番下がる時期であり、燃料価格も落ち着くのが通常です。しかし、実際にはまだ燃料価格は落ち着いておらず、多くの電力エリアで7万~8万円台が続いています。
このまま節電が求められる夏や寒い冬が来ると、燃料費の不安定な状況はさらに深刻になる可能性があります。
電気料金制度の課題
━━━この後、具体的に電気料金高騰の要因について詳しく伺いたいのですが、一旦ここまでで、料金決定の課題や改善すべきポイントについて、狩野さんのお考えをお聞きしたいです。
改善すべきポイントとして、電力システムそのものを変える必要があると考えます。
電力システムの改革は、再生可能エネルギーが普及する今、特に重要です。太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーは、時間帯や季節、気候によって発電量が大きく変動します。
このような変動型の再生可能エネルギーを「VRE(Variable Renewable Energy)」と呼びますが、現在の電力システムでは、一定以上の再エネ電力を受け入れることが難しい仕組みとなっています。
その背景には、電力システムのデジタル化が不十分であるという問題があります。
今後の課題は、電力のデジタル化を進め、効率よく再生可能エネルギーを取り込む仕組みを整備することです。これにより、電力量料金の仕組みを超えて、電力業界全体の改革が進む可能性があります。その結果、新たな電力料金メニューが生まれるかもしれません。
それは一つの大きな変革のきっかけとなるでしょう。
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