埼玉県初 | 太陽光パネルリサイクル事業を開始した株式会社ウム・ヴェルト・ジャパンが語る、太陽光パネルリサイクルの現在地は?

昨今電気料金が高騰していること、そして脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーの需要が高まっていることから自家消費型太陽光発電のご相談・ご導入が非常に増えております。

その際、お客様から太陽光パネルのリサイクル方法や処理問題についてもご質問頂くことが増えて参りました。

当記事では、使用を終えた太陽光パネルの処理方法とその現状について解説したのち、太陽光パネルの廃棄問題に対して埼玉県で初となる太陽光パネルリサイクル事業を開始した株式会社ウム・ヴェルト・ジャパン 取締役副社長の小柳氏に太陽光パネルのリサイクル事業を始めた理由、そして太陽光パネルリサイクル事業の現状についてインタビューを実施しました。

弊社は太陽光発電設備をお客様にご導入して頂く立場であり、その立場として太陽光パネルの廃棄処理の現状を定期的にお伝えしていく義務があると考えております。

2023年2月時点の取材先企業様の“見解”も含んだ内容となります。太陽光発電を検討されている方、太陽光発電をすでに導入されている方々にとって“あくまで一つの情報”としてご参考になりましたら幸いです。

太陽光パネルの処分は義務化されている?

運転中の破損や性能低下などで使用済みとなった太陽光パネルは、廃掃法に基づき産業廃棄物として適正処分することが義務付けられています。

(事業者の責務)
第三条 事業者は、その事業活動にともつて伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。
2 事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物の再生利用等を行うことによりその減量に努めるとともに、物の製造、加工、販売等に際して、その製品、容器等が廃棄物となった場合における処理の困難性についてあらかじめ自ら評価し、適正な処理が困難にならないような製品、容器等の開発を行うこと、その製品、容器等に係る廃棄物の適正な処理の方法についての情報を提供すること等により、その製品、容器等が廃棄物となった場合においてその適正な処理が困難になることのないようにしなければならない。
3 事業者は、前二項に定めるもののほか、廃棄物の減量その他その適正な処理の確保等に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。

引用:廃棄物の処理及び清掃に関する法律(eGOV法令検索

よって事業者は、太陽光パネルに限らず、その事業活動に伴って生じた廃棄物を責任を持って適切に処理する必要があります。ですが「廃棄物ではない」と主張した場合や不法投棄された場合の対応が困難であるという現状もあります。

また一般の排出事業者が廃棄物を適切に処理することは技術的・経済的にも難易度が高いため、実際は産業廃棄物を専門に取り扱う事業者(中間処理業者・最終処分業者)に委託することが一般的です。

太陽光パネルの廃棄処分の流れ

具体的に太陽光パネルの廃棄処分の流れを見ていきます。

まず廃棄処分される太陽光パネルは”産業廃棄物”として処分されますが、具体的な処理の流れが環境省の『太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン』に記載されています。

当ガイドラインにおいては、役目を終えた太陽光パネルの処理方法について以下の優先順位が定められています。

  •  ①発生抑制(リデュース)
  •  ②再使用(リユース)
  •  ③再生利用(リサイクル)
  •  ④埋立処分
太陽光パネル処理の全体的な流れ(引用:環境省

①発生抑制(リデュース)

最も優先順位が高く、導入当初から行える方法が、発生抑制(リデュース)です。

昨今電気料金が高騰していること、そして脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーの需要が高まっていることから太陽光発電設備の導入量が年々増えていますが、設備の定期監視や適切なメンテナンスを行うことが、太陽光パネルの発生抑制(リデュース)につながります。

②再使用(リユース)

次に優先順位が高いとされる処理方法は、再利用(リユース)です。

交換した太陽光パネルが再利用可能な場合は、業者に買取を依頼し再利用(リユース)することができます。現時点は、災害などによる破損が原因となるパネル廃棄が多いため、リユースの実例が乏しい実情もあります。

③再生利用(リサイクル)

リユース不可能と判断された太陽光パネルはリサイクルによって処理されます。

冒頭で述べた通り、一般の事業者が廃棄物を適切に処理することは技術的・経済的にも難易度が高いため、太陽光パネルのリサイクルが可能な中間処理業者・最終処分業者に委託する必要があります。その際中間処理業者によって、ガラス、アルミ枠、ケーブル、バックシートなどに分離し、有価物としてリサイクル販売をします。

太陽光パネルの廃棄に重要な役割をはたすリサイクルですが、その工程において技術的な課題もあります。

それは、封止材(EVA樹脂)で強固に貼り合わされているガラスを剥離する工程の難易度が高いことです。

太陽光パネルは、長期間の使用に耐えられるように封止材(EVA樹脂)でガラスを強固に固定しています。そしてリサイクル時にこの封止材を分離・除去することが非常に困難と言われています。

引用:PVリサイクル.com®

またリユースが困難な太陽光パネルは「リサイクル」及び「破棄」の処理をする必要がありますが「リサイクル」が出来る埼玉県の業者は2023年2月現在1社のみとなります。

リサイクル業者が少ない理由としては、太陽光パネルをリサイクルする為には大掛かりな設備投資が必要なのに対し、「今現在」はまだ廃棄太陽光パネルが少なく、事業として経済合理性がないと判断している企業が多いからだと考えられます。

よってリユースもリサイクルも困難なパネルについては、産業廃棄物として処分場で埋立処分をしている場合が多いです。

太陽光パネルのリサイクルに取り組んでいる埼玉県の企業

ピーク時には、使用済み太陽光パネルの年間排出量が、産業廃棄物の最終処分量の6%におよぶという試算もあり、一時的に最終処分場がひっ迫する懸念がある太陽光パネルの廃棄問題。

技術的課題や経済的課題があるとはいえ、できる企業から解決に向けて積極的に取り組んでいくべき社会課題と言えます。

ここからは、太陽光パネルの廃棄問題に対して、埼玉県で初となる太陽光パネルリサイクル事業を開始した株式会社ウム・ヴェルト・ジャパン 取締役副社長の小柳氏に、太陽光パネルのリサイクル技術についての詳細、太陽光パネルのリサイクル事業を始めた理由、そして事業の現状についてインタビューした内容を公開します。

太陽光パネルのリサイクル事業を始めた理由

━━━まず初めに貴社について教えてください。

ウム・ヴェルト・ジャパンは、2002年に産業廃棄物処分業(蛍光管処理)許可を取得して廃蛍光管リサイクル事業を開始しました。

その後2006年には、彩の国資源循環工場内にて寄居工場(埼玉県)の操業を開始し、現在に至るまでリサイクル事業を主軸に事業を行ってきました。太陽光パネルのリサイクル事業は寄居工場で行っています。

彩の国資源循環工場は、民間リサイクル施設(借地事業者)、PFIサーマルリサイクル施設(PFI事業者)、県営最終処分場、県と民間の研究施設で構成する総合的な「資源循環モデル施設」です。ここに集積する環境産業群が相互に連携し、効率的で効果的な資源再生と技術開発に取り組んで参ります。

引用:埼玉県HP

━━━具体的にどうして太陽光パネルリサイクル事業を始めようかと思ったのでしょうか?

約3年ほど前に埼玉県の太陽光パネルのリサイクルに関する部会に参加しました。

部会で、20〜30年後に太陽光パネルの大量廃棄問題が発生するかもしれないという議題がありまして、その時に「弊社として何かできることはないか?」「どんな施設を作ればリサイクルに寄与できるのか?」と考え始めたことがきっかけです。

以前はリサイクルした吹きガラスによるガラス工芸品の製作体験も開催

━━━リサイクル工場の開設は2021年1月だと伺いました。2019年に部会でお話を聞いてから短いスパンで事業化されたという印象を受けますが、スピーディに設備が稼働できた理由はありますか?

まず蛍光管のリサイクルというのは、要はガラスのリサイクルといえます。

そして太陽光パネルも、蛍光管と同様に7〜8割がガラスで出来ていますのでガラスのリサイクルといえます。

蛍光管のリサイクルは素材を分離する。太陽光パネルもアルミ・ガラス・バックシートなどの素材を分離する。そういった観点では、蛍光管も太陽光パネルも同じです。

弊社には、すでに蛍光管のリサイクル技術・ノウハウがあったので太陽光パネルのリサイクルについてもスムーズかつスピーディに稼働ができたのだと思います。

事業としての収益性

━━━事業ですので「収益性」も懸念されたと思います。収益面を踏まえてもなぜこのタイミングで事業を始められたのでしょうか?

実は蛍光管のリサイクル事業を始めた時は後発だったのです。

大手企業の2〜3社が約8割のシェアを占有していましたので、後発の弊社はなかなかシェアを奪えないという経験がありました。

そういった経験からも、将来確実に必要になってくる太陽光パネルのリサイクル事業は早いタイミングからスタートしたいと思いがありました。また、そもそも「太陽光パネルにもリサイクル技術があること」をいち早く多くの人に知って頂きたいという思いもありましたね。

それが検討を始めてから、すぐに事業をスタートした理由です。

━━━今振り返って見て、このタイミングで太陽光パネルのリサイクル事業をスタートしたことをどう思いますか?

早かったなと思います。笑
正直、事業としてはまだまだこれからといったところです。

ですが設備の導入にあたって補助金を頂いていますので、そういった点では適切なタイミングだったかなとも思います。

あと、今後さらに太陽光パネルのリサイクル事業を行う企業が増えていくと思っています。太陽光パネルのリサイクルにはまだまだ課題がありますから、いち早くリサイクル事業を始めておくことで「太陽光パネルリサイクルのノウハウ」が獲得できて、将来的に他社との差別化に繋がると考えています。

太陽光パネルリサイクル事業の課題

━━━具体的にどのような課題があるのでしょうか?

その一つとして挙げられるのが「各パネルごとに含有されている物質とその量が異なること」そして、「各パネルごとに含有されている物質とその量が把握できる”データシート”をメーカーから取得しにくい点」です。

太陽光パネルの一部には鉛、セレン、カドミウムなど有害物質が含まれていますので、そういった有害物質の含有についてもきちんと認識した上で処理をする必要があります。

加えて、“リサイクル”となると分離したガラスや銀を業者や製錬所に買い取って頂く必要があります。

その際、異なるメーカー・異なる型式の太陽光パネルを一緒にリサイクル処理してしまうと、分離されたガラスや銀の品質にムラができてしまい、業者や製錬所が買い取ってくれないケースが出てきてしまうのです。

よって弊社は同じメーカーや同じ型式のパネルが、ある程度まとまったタイミングにロットでリサイクル処理をしています。

そういった理由からも、リサイクル事業をする上で「各メーカーのパネルにどの物質がどの程度含有しているのかをデータとして持っておくこと」がリサイクル事業の根幹となってくると思っています。

太陽光パネルって日本製より海外製の方が多いですよね。

今では少し改善されましたが、日本のメーカーでもパネルに含まれているヒ素や重金属系のデータシートをなかなか開示してくれないなと感じます。海外のパネルメーカーはなおさらです。

特に太陽光が普及し始めた2012年頃に設置されたパネルは、製造メーカーがすでに倒産していて、どうしても情報の取得ができないこともあります。

そのため、我々は実際にパネルリサイクルを受け入れて、X線の分析装置でメーカーや型式ごとにどのようなものが含まれているのかを調べてデータとして蓄積しています。また自社での調査だけでなく、正式に外部に調査に出してガラスの成分を調べてデータを蓄積することもしています。

本来は太陽光パネルの含有物質に関する情報をホームページ上で型番・製品名から検索ができるようにするなど、容易に確認できる仕組みの整備があると良いのですが。

そういった実情もあり、より早いタイミングからリサイクル事業を始めて今後発生するパネルの大量廃棄時代に向けていち早くデータを溜めていく必要があるという思いに至りました。

ガラスとバックシートの剥離

太陽光パネルのリサイクルにかかる費用感

━━━今後、太陽光パネルの処分費用が課題になってくると思います。現在の“リサイクル”の費用感を教えてください。

リサイクルではなく「埋立処分」する際は、複数枚のパネルをシュレッダーで一気に粉砕して処分する方法もあったりしますので比較的安価に処理できます。

一方、「リサイクル」は基本的にパネルのガラスを一枚ずつ丁寧に分離処理していく方法が主流です。これはパネルに含まれるガラスをリサイクルすることを前提としています。

弊社でパネルのガラスを一枚ずつ丁寧に分離処理していく方法でリサイクルすると、大体1枚3,000円程度をスタートに対応が出来ますね。

━━━今後一枚あたりのリサイクル費用は上がって行きますか?下がって行きますか?

今の1枚当たりのリサイクル費用は、おそらく下がっていくと思います。

というのも、環境省のガイドラインでは使用済パネルの適切な処理方法としてリサイクルよりもリユース(再利用・買取)の方が優先順位が高いとされています。

リユースは、排出事業者側が買取業者からお金を「貰える(または費用がかからない)」

一方リサイクルは、排出事業者側がリサイクル業者にお金を「支払う」

排出事業者からしたらリサイクル費用としてお金を支払うくらいなら、“0円”でもいいから引き取って欲しいと思うのは当然ですよね。

そうなると当たり前の市場原理として、リサイクル費用も下げていかざるを得ないと思います。

私は、太陽光パネルに含まれるガラスや銀は有限な資源ですのできちんリサイクルされるべきだと思っていますし、日本国内そして埼玉県内でその資源が循環していくことが理想だと思っています。

ですが、今はリサイクルを義務化する枠組やリサイクルへ取り組むインセンティブがありません。

ですので実態としてはリサイクルではなく“リユース品”として太陽光パネルが“海外”に輸出される割合が多いようですね。また、リユースできない場合はリサイクルではなく、より安価な埋立処分が選ばれているのが正直なところです。

「リサイクルが大事なのは分かるが、プラスの費用を払ってまでリサイクルする必要はあるの?」という“リサイクルの意義”に対しての単純な疑問に、明確な回答ができないもどかしさがあります。

そういった背景からも、企業として一枚あたりのリサイクル費用を下げていく努力が必要ですし、そうしないと事業としては成り立たなくなってしまいます。

リサイクルが選ばれる世の中になるために

━━━どのような取り組みが太陽光パネルのリサイクルのニーズを増やしてくことになりそうでしょうか?

まずは国の法令やリサイクルに対する枠組が必要だと痛烈に思います。

例えば、家電リサイクル法(平成 10 年法律第 97 号。特定家庭用機器再商品化法)や自動車リサイクル法(平成 14 年法律第 87 号。使用済自動車の再資源化等に関する法律)がありますよね。

家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法)は、一般家庭や事務所から排出された家電製品(エアコン、テレビ(ブラウン管、液晶・プラズマ)、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)から、有用な部分や材料をリサイクルし、廃棄物を減量するとともに、資源の有効利用を推進するための法律です。

引用:経済産業省HP

自動車リサイクル法(使用済自動車の再資源化等に関する法律)は、ゴミを減らし、資源を無駄遣いしないリサイクル型社会を作るために、クルマのリサイクルについてクルマの所有者、関連事業者、自動車メーカー・輸入業者の役割を定めた法律です。

引用:経済産業省HP

どうして太陽光パネルに対しては同様の法律がないのか疑問に思いますし、廃棄処理については、市場原理・民間企業任せにされている印象も受けます。

県の方からも色々とリサイクル事業に対してアドバイスを頂いたりしていますが、県としても「結局は排出事業者の責任」になるので排出事業者がリユースするのか?リサイクルするのか?の判断にまで影響を及ぼせていない実情があると思います。

以前蛍光管のリサイクルにも同じような状況がありました。その後、水銀に関する水俣条約などが出てからISOやSDGsに取り組んでいる企業は蛍光灯の適正処理・リサイクルに取り組むようになりました。

いずれにせよ太陽光パネルのリサイクルについて国や県としての施策や枠組みが今のところありません。

今後リサイクルが普及していくためには、民間企業が努力してリサイクル費用を下げていくこと、そしてリサイクルの意義をきちん発信することが大事だと思います。

加えて、国や県の法律や枠組みによる社会的後押しも必要だと思います。両輪が必要です。

これからも日本国内そして埼玉県内で資源循環を実現できるように、時間はかかりますが少しでも貢献していけるよう頑張っていきたいと思います。

━━━本日はありがとうございました。太陽光発電に関わる事業者として責任を持って取り組んでいきたいなと改めて思いましたし、同じ埼玉県の企業として誇りに思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。

この記事を書いた人

恒石陣汰
株式会社恒電社

恒石陣汰

前職にて、イスラエル発のWEBマーケティングツール「SimilarWeb」「DynamicYield」のセールス・カスタマーサクセスを担当。その後、日本における再生可能エネルギーの普及と、電力業界に大きな可能性を感じ、2020年に恒電社に入社。現在は、経営企画室長兼マーケティング責任者として従事。YouTubeなどを通じた、電力・エネルギー業界のマクロ的な情報提供をはじめ、導入事例記事では、インタビュアー・記事の執筆も行なっている。

クリエイティヴ担当(写真撮影・動画製作)

岩見啓明
株式会社恒電社

岩見啓明

クリエイター。恒電社では動画、記事、広報、企画、セミナー運営、デジタル広告と幅広く施策を担当。個人では登録者数1万人超えのYouTubeチャンネルを運用した経験の他、SDGsの啓蒙活動で国連に表彰された経歴も。2023年に二等無人航空機操縦士(ドローンの国家資格)を取得。

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