【COP28で岸田首相が言及】今後の企業経営で必ずおさえておきたい「カーボンプライシング」とは?

【必須】今後の企業経営で必ずおさえておきたい「カーボンプライシング」とは?
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COP28を目前に控え、脱炭素社会の実現に向けた世界的な動きが加速しています。この取り組みの中で、注目されているのが「カーボンプライシング」という政策です。

欧州を筆頭に世界各国で導入が進んでおり、その効果に注目が集まっています。

本稿では、カーボンプライシングの基本原理、各国での導入状況、そしてこの制度が企業にどのような影響を与えているのかを詳しく見ていきます。

「カーボンプライシング」とは

まず「カーボンプライシング」とは何かを解説します。

「カーボンプライシング」とは、企業などの排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法です。有名な手法には「炭素税」や「排出量取引」と呼ばれる制度がありますが、それだけではありません。カーボンプライシングにはさまざまな手法があります。

一般的に、政府によっておこなわれる主なカーボンプライシングには、

・企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する「炭素税」
・企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間でCO2の排出量を取引する「排出量取引制度(ETS=Emission Trading Scheme)」
・CO2の削減を「価値」と見なして証書化し、売買取引をおこなう「クレジット取引」

などが挙げられます。ほかにも、「石油石炭税」などエネルギーにかけられる諸税、法律による規制などもカーボンクプライシングに含まれます。

政府主導のしくみ以外にも、企業が自社のCO2排出を抑えるために、炭素に対して独自に価格付けをし、投資判断などに活用する「インターナル(企業内)・カーボンプライシング」などの方法があります。

引用:脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?(資源エネルギー庁)

端的に言い換えると、温室効果ガスの排出にコストを課すことで、企業や個人が排出量を意識し、削減に努めるよう促す政策ということです。

この制度を通じて、温室効果ガスの排出量の削減を目指した結果、クリーンエネルギーの利用が増加し、環境に優しい製品やサービスの価値が高まることが期待されています。

それにより、さらなる脱炭素化への投資が促され、温室効果ガス削減に向けた最新技術の普及が進むことも見込まれています。

一方、カーボンプライシングにはいくつかの課題も存在します。

たとえば、環境規制が緩い国への生産拠点の移転(※カーボンリーケージ)や、環境規制の厳しい国やその国で事業を行う会社への経済的な悪影響を及ぼすリスクも考えられます。

※「カーボンリーケージ(炭素リーケージ)

温室効果ガスの排出規制が厳しい国の企業が、規制の緩やかな国へ生産拠点や投資先を移転し、結果的に世界全体の排出量が増加する事態のこと。

例えば、欧米ではここ数年、温室効果ガスの排出量は減少傾向にあるが、中国やインドなどの発展途上国では急激に増加している。途上国の排出量の増加は、一方では国内の成長によるところも大きい。しかし、日本などの先進国の企業がコスト削減や規制を回避するために海外に工場を設立し、自国以外での排出量を増やしていることも一因だ。その結果、環境汚染や気候変動を助長するというパラドックスが生じている。

引用:カーボンリーケージとは

そのような影響を最小限に抑えるには、適切なインセンティブを提供すると共に、バランスのとれた政策が求められます。

日本における「カーボンプライシング」

カーボンニュートラルを宣言する国・地域が増加(GDPベースで9割以上)し、排出削減と経済成長を共に実現しようとするGXの取り組みの成否が企業・国家の競争力に直結する今、日本においてカーボンプライシングは議論されているのでしょうか?

2023年5月、岸田内閣は、気候変動への対応とエネルギー安定供給の確保、経済成長の同時実現を目指し、「GX実行会議」を通じて基本方針を策定しました。

この方針では、GX(グリーン変革)の実現に向けて、カーボンプライシングを活用した投資インセンティブ「成長志向型カーボンプライシング構想」が掲げられています。

構想のポイントは以下の3点です。

「排出量取引制度」の段階的実施

排出量取引制度とは、温室効果ガス削減を目的として、国や企業に温室効果ガスの排出枠を設定し、この枠内での排出を義務化する制度。排出枠を超えた国や企業は、排出枠に余裕のある他の国や企業から排出枠を購入することが可能で、この枠の売買が「排出量取引」または「排出権取引」と呼ばれます。

2023年4月から「排出量取引制度」の試行運用を予定しており、この制度は2026年度に本格稼働する見込みとされています。企業は自発的に設定した温室効果ガス削減目標に基づき行動し、それらを遵守することが期待されています。

化石燃料輸入業者への「賦課金」の適用予定

2028年度頃を目処に、化石燃料輸入業者に対して炭素排出量に比例した賦課金の導入が検討されています。この賦課金は、段階的に引き上げられる可能性があり、化石燃料依存の減少とクリーンエネルギーへの移行を促すことが意図されています。

発電事業者に対する排出枠の「有償オークション」の導入予定

2033年度頃の導入を目指しており、発電事業者は排出枠を市場で調達することが義務付けられる予定です。排出枠の有償オークションは段階的に導入され、早期に環境対策に取り組む企業には経済的なインセンティブが提供されることが検討されています。

脱炭素社会への移行が進む中、経済的な観点からも環境への配慮が不可欠な時代に突入しており、脱炭素化に向けて積極的な取り組みを怠ると、将来的には経済的損失を被ってしまうリスクが高まっています。

「カーボンプライシング」によって、どのような企業が影響を受けるのか

それでは「カーボンプライシング」によってどのような特徴を持つ企業・産業が影響を受けるのかを考察していきます。

「化石燃料」への依存度が高い電力会社と電力契約をしている「企業」

化石燃料への依存度が高い電力会社と契約している場合、カーボンクレジット制度の導入により、その電力会社は、CO2排出量に応じて排出権を購入する必要が生じます。

それにより電力コストが上昇し、そのコストは電力を購入する企業に転嫁される可能性が高いです。

特に、電力消費量が多い製造業・データセンター・大規模オフィスなどは、電力コストの上昇により直接的な経済的影響を受けることになります。

よって企業は、現在契約している電力会社の電源構成比を確認したり、そもそも電力の調達方法を見直し、自家発電による再生可能エネルギーの活用などを検討する必要が出てきます。

  各電力会社の電源構成比(2019年度)

引用:「東京電力」の電源構成(2019年度実績)
引用:「九州電力」の電源構成(2019年度実績)

また新しい工場の建設地を決める際も、そのエリアがどの電力会社の管轄下であるかが、企業の競争力を維持する上でも重要な検討材料となってきています

その例として、特に注目されているのが、世界最大の半導体受託製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県菊陽町に新工場を建設したことです。

TSMCが熊本県に進出を決めた理由の1つとして、九州エリアの電気料金が比較的安価であることが挙げられています。九州エリアは原子力発電が稼働し電気料金が低いことで知られており、TSMCの進出によって、九州が新たな工場建設の中心地となる可能性も浮上しています。

そのため、企業が新たな工場を建設する際に「電気料金(コスト)の水準が低いこと」「電源構成比を見た際に、電力会社として将来の経済的リスクがあるか」が非常に重要な要素となっており、中でも九州エリアの電気料金が安いことは、製造業の企業にとって競争力の点からも大きな魅力となっているのです。

参照:工場立地と電気料金、なぜ九州に台湾半導体大手TSMCは新工場を建てるのか?

製造工程における「エネルギー効率が低い(電力消費の多い)製造業」

古い技術や設備を用いる製造業の企業は、エネルギー効率が低い(電気を多く使用する)ため、それに伴いCO2排出量が相対的に多くなってしまう傾向にあります。

カーボンクレジット制度では、これらの排出量が直接的なコストとして企業に課されることになるため、製造コストの増加に直結します

電力消費が多い業界、例えば鉄鋼、セメント、化学製品製造、食料品製造業などは大きな影響を受けることが予想されており、これらの企業は、製造工程の改善や効率化、再生可能エネルギーへの投資を通じて、長期的なコスト削減と環境負荷の軽減を図る必要があります。

重い、または体積の大きい製品を輸送する運輸業

物理的な製品の輸送は、特に長距離である場合、多くのCO2排出を伴います。トラック、船舶、航空機などを使用する物流においては、燃料の消費が多くなり、これがCO2排出の大きな源となります。

カーボンクレジット制度下では、これらの排出量に基づいてコストが発生するため、特に重量貨物や大量の製品を輸送する企業には大きな経済的影響が及ぶ可能性があります。

このため、企業は輸送効率の改善、EVなどのより環境に優しい輸送手段への転換、または地域に近い生産拠点の利用など、物流プロセスの抜本的な見直しを行う必要も出てきます。

引用:運輸部門における二酸化炭素排出量(国土交通省)

大量の電力消費を伴うデータセンターを運用するIT企業

データセンターは巨大なエネルギーを消費します。

特にクラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIなどの技術が普及する中で、そのエネルギー需要は増大しています。これらのデータセンターが化石燃料に依存した電力を使用している場合、カーボンクレジット制度により運用コストが大幅に上昇する可能性があります。

特にChatGPTで話題のOpenAI社や、GoogleなどのIT企業はサーバーの維持の大量の電力を消費していることが報告されています。

2022年における機械学習モデルと実例の炭素排出量推定値比較(単位: トン)
Image: The AI Index 2023 Annual Report / Stanford University

そのような背景からも、なぜOpenAI社のサム・アルトマン氏がCEOを務める米新興企業の「オクロ」が、ニューヨーク証券取引所に上場し、小型モジュール原子炉(SMR)と呼ばれる次世代原発に投資を行っているかが理解できます。

またGoogle社も、多く再生可能エネルギーを購入して、2017 年以降世界中の年間消費電力の100%を再生可能エネルギーで賄う企業となっています。

IT企業も、サービスを低コストで安定的に提供するためにも、効率の高いサーバーの導入や冷却システムの最適化、または再生可能エネルギーへの切り替えなどを通じて、エネルギー消費とCO2排出を削減する必要があります。

まとめ

この記事では、脱炭素社会への移行に向けての一つの手段として注目されている「カーボンプライシング」について解説しました。

カーボンプライシングは、化石燃料への依存が高い電力会社と契約している企業や、電力消費の大きい企業などに影響を及ぼすと予想されます。

将来の経済的な損失を避け、企業の競争力を維持していくためにも、カーボンプライシングへの対策は必須であると言えるでしょう。

恒石陣汰
株式会社恒電社

恒石陣汰

前職にて、イスラエル発のWEBマーケティングツール「SimilarWeb」「DynamicYield」のセールス・カスタマーサクセスを担当。その後、日本における再生可能エネルギーの普及と、電力業界に大きな可能性を感じ、2020年に恒電社に入社。現在は、経営企画室長兼マーケティング責任者として従事。YouTubeなどを通じた、電力・エネルギー業界のマクロ的な情報提供をはじめ、導入事例記事では、インタビュアー・記事の執筆も行なっている。

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